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シェーションです。彼にはスワニルダという恋人がいるのですが、刺激を求める若者らしく、他の女にも目がいってしまいます。その女が外見だけのつまらない女だということがわかったとき、スワニルダの魅力を再発見し、彼女のもとへと帰ってくるのです。これを一度経験しておかないと、結婚してから浮気する羽目になる、と言ったら言い過ぎでしょうか。
いずれにせよ、スワニルダをはじめ、村の若者たち(を演じるダンサーたち)は若々しく、溌刺として、お茶目で、ちょっぴり意地悪でなくてはなりません。コッペリウスにたいするイタズラが陰湿に見えたらこのバレエは台無しです。

フランツはもともと女性が演じた

初演のときにフランツを演じた(踊った)のは、ウージェニー・フィオークルという女性でした。まるで宝塚みたいですが、当時は珍しくなかったのです。だから、フランツがスワニルダを持ち上げるところなどは、後から付け加わった振付だということがわかります。パリ・オペラ座では第二次世界大戦後まで、女性がフランツを踊っていました。
「コッペリア」(1870)は、いわゆるロマンティック・バレエの最後期の作品の一つです。
「ラ・シルフィード」(1832)、「ジゼル」(1841)によって大流行したロマンティック・バレエは、一口でいえば「女のバレエ」でした。観客の目は、ポワントで踊るバレリーナの美しさに集中し、男性ダンサーはもっぱら後ろでバレリーナのピルエットを支えていたのです。それどころか舞台に出る男性はますます少なくなり、男役も女性がやるようになったのです。踊り手が女性ばかりでは、当然ながら表現の幅が限定されますから、このことが西欧のバレエ衰退の原因となりました。西欧でバレエがふたたび盛んになるの20世紀になって、ディアギレフがロシアのバレエを紹介してからのことです。

エキゾティズム

「コッペリア」の舞台はポーランドということになっています。当時のパリの観客にとっては、東欧はまだ遠い異国でした。エキゾテイズム(異国趣味)というのもロマンティック・バレエの一つの大きな特徴でした。それが証拠に「ラ・シルフィード」の舞台はスコットランド、「ジゼル」の舞台はドイツです。「コッペリア」でも異国情緒を高めるため、東欧ふうの衣装や装置だけでなく、チャルダッシュとかマズルカといった民族舞踊が取り入れられています。第二幕に登場する人形たちからもエキゾテイズムが感じられます。

エナメルの眼をした娘

では、このバレエは誰によってどのように作られたのでしょうか。
原作は先にも触れたように、ドイツの幻想作家E・T・A・ホフマンの「砂男」です。なかなか恐い怪奇小説です。台本作者ニュイッテル、この人はオッフェンバックのオペレッタの台本をたくさん書いている人ですが、彼は「砂男」の一部だけを借用して、しかも恐いところ、不気味なところを払拭して、悲劇を喜劇に変えました。ちなみに、「ラ・シルフィード」や「ジゼル」の頃には悲劇が好まれたのですが、「コッペリア」の頃になると、バレエは軽い娯楽になっていましたから、かならずハッピーエンドだったのです。「コッペリア」には「エナメルの眼をした娘」という副題がついていますが、じつは「砂男」では眼球が重要なモチーフになっています。主人公ナタニエルは子どものころに怪人コッペリウスに眼をくり抜かれそうになるし、彼が恋する自動人形オリンピアは人間の眼を使って作られ、最後には眼をくり抜かれます。そもそも題名になっている砂男というのは、伝説で、人間の眼に砂をかけて眠気を誘う「睡魔」の象徴です。眼をくり抜くというグロテスクなイメージを払拭するために、わざわざ「エナメルの眼の娘」という副題を付けたのでしょうが、かえって台本作者の眼にたいするこだわりを露呈しています。

音楽と振付

「コッペリア」の音楽は誰でも知っていると思いますが、作曲者はレオ・ドリーブです。彼の曲はチャイコフスキーに多大な影響を与えたという点で大変重要です。いってみればチャ

 

 

 

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